秀808の平凡日誌

第参拾弐話 迎撃(中編)

「アッハッハッハ!!所詮数だけか!?」

 クロードの声が高らかに古都ブルンネンシュティグの西部に響く。その足元には、一太刀も浴びせる事無く死んでいった兵士達が転がっている。

 クロードの鎧、武器にはいたるところが返り血に染まっている。

 近くの民家などは徹底的に破壊され、崩れた瓦礫には切り裂かれた兵士達の血と燃えさかる炎の明かりで紅く染まっていた。

「…そうだよな?セルフォルス?」

 クロードは、事切れて転がっている兵士の一人一人に祈りを捧げていたセルフォルスに聞いた。

「…そのようですな、クロード様」

 セルフォルスはやはり、死んでいる兵士に祈りを捧げながら答えた。

 クロードは彼の行動がよく理解できなかった。祈りを捧げる事はクロードとて毎日している。愛するセレナの病気が早く直るようにと。

 だがなぜ、敵にまでそのような事をしているのだ…?

 ふと足音が聞こえ、反射的にそちらに向き直った。

 そこには、紅く輝く手斧を持ったシーフ、そして何やら怪しい配色をした弓を持つアーチャーだ。

 その2人の装備を見る限り、今まで彼等が葬ってきた兵士達はとは明らかに違う強さを持っているとクロードは薄々感じた。




「ひどい…こんなことって…」

 隣にいたキャロルが思わず言葉を洩らす。西部の防衛を担当している兵士から援護を頼まれ、レヴァルと向かった先はあきらかに悲惨な現場であったからだ。

 まさに、一方的な―――いや、虐殺ともいえる悲惨な場だった。

 そしてその一方的な戦闘をした敵が2人―――目の前にいる。

 剣と弓を持った緑色の短髪の少年の方は、なにやら倒れている兵士の傍に立ってこちらを見ている。

 そしてもう一方の茶色の長髪をした少年は、身につけている長刀と鎧にべっとりと返り血を浴びて真っ赤である。

 短髪の少年の方はあまり血を浴びてないところを見ると、ほぼこいつが単独でこの虐殺を行ったということなのか?

 だとすれば、油断はできない。どのような力を持っているかわかったものではないのだ。

 レヴァルも同じように感じたのか、小さくキャロルに警告した。

「キャロル、気をつけろ…こいつら、できるぞ」

「……はい」

 そのとき、遠くの東部地域にて、耳をつんざくような咆哮が轟いた。





「…こ、これは…」

 しるべあの前には今、人間の姿を解除して元の龍の姿になったスウォームが立っていた。

「コノ姿ナラ、本気デ貴様ト相手ヲシテヤルコトガデキソウダ…」

 しるべあは嫌な汗を額からだらだらと流している。彼の頭の中では、これからどうするか必死に考えていた。

 ―――――どうする?逃げようか、戦うか?

 とりあえずここは逃げるべきだと、しるべあの第六感が告げる。とりあえずここは場所が狭い、広い場所に逃げてそこで戦うべきだろうと感じた。

 そんなしるべあの考えを察知したのか、スウォームが叫ぶ。

「…逃ガシハセンゾ?人間!!」

 そしてスウォームの方に風が吹いたと思った瞬間、その口から黒炎のブレスが吐き出される。

「っ!!」

 間一髪のところでしるべあはそのブレスを避けたが、人間時より何倍も強力なブレスに、直撃した地面が爆発したかのように粉微塵に吹き飛んだ。

 その時、冷や汗を垂らしたしるべあの『ポータルストーン』に通信が入り、音声が洩れた。

『しるべあ、聞こえるか?俺だ、ミギリだ』

 それは同じギルドメンバーのミギリからの通信だった、しるべあは内心喜びつつ縋るように応答する。

「聞こえますよ、なんですか?ミギリ?」

『…例の準備がたった今完了した。その龍を『ハイ・エンド・コロシアム』に誘い込んでくれよ』

「…わかりました、でもこのデカブツをどうやってそこに誘い込むのです?…まさか…」

 再び嫌な汗が流れ始める、その予想は見事に的中した。

『…そりゃわんちゃんが囮になって連れてきてもらうしかないな…じゃ、頼んだ』

「えええええええええええ!!ちょっとま…」

 それ以降、通信は切られた。

「…後で覚えておいてくださいね…」

 そして覚悟を決めると、こちらを探しているスウォームの前に勢いよく踊り出た。


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